今回は又聞きですが、京都にある老舗の料亭の接遇についてお伝えしましょう。皆さんご存知のように、冬の京都はかなり冷え込みます。そんな凍えそうな寒い夜のことです。料亭の下足番を長く勤めてきた「Aおじいさん」は、いつも通りにお客様を玄関でお迎えして、ひとことふたこと言葉を交わしながら、お客様の脱いだ靴を手際よく下駄箱に収納しました。そして客足が途絶えたところで、下駄箱の片隅に置いていた赤い小さな袋を取り出して、お客様の靴に入れ始めました。やがて、食事を終えたお客様が玄関に戻られて、ご自分の靴に足を入れた瞬間、声をあげました。「あれ!靴があったかい!」その時のお客様の驚きといったらどうでしょう。「Aおじいさん」は、使い捨てカイロでお客様の靴を温めていたのです。そしてお客様にはカイロが見えないように直前に取り出して、靴を玄関に準備したのです。もちろん仕掛けの説明など無粋な事はいっさいしません。これが「Aおじいさん」の流儀なのでしょう。「あくまでもさりげなく・・」ですね。殿様の草履を懐に入れて温めていた、木下藤吉郎の心遣いを思い出しました。
素晴らしい接遇
