見立ての面白さ
7月に南米のチリから劇団「テアトロ・デ・オカシオン」がサザンクスに初登場しました。演目は「アナのはじめての冒険」。40分ほどのノンバーバル(非言語)の小作品で、子どもから大人まで楽しめる素晴らしいパフォーマンスでした。少女アナを演じる女優さんと男性2名だけの出演で、歌もダンスも演奏も擬音効果まで担ってしまう省エネの舞台。大道具など一切なしのシンプルさ。ところがこのシンプルさが逆に観客を刺激して、舞台に引き込まれていきました。ではなぜ3名の役者たちは、いとも簡単に観客を想像の世界に導くことができたのか。実はこれが「見立て」と呼ばれる表現手法です。何かを表現したい時にそれをそのまま提示するのではなく、他の何かを使うことによって表現すること。例を挙げると、アナが砂漠で蛇と出会うシーンに使われるのが、縞模様の入った一本のロープです。このロープを俳優たちが集中力を持ってクネクネと動かすことで、本物に似せて作られたオモチャの蛇よりも、怖い蛇に見えて来ます。歌舞伎で使う波布も日本が生んだ「見立て」の手法です。リアルな映像で説明的に表現するよりも、劇的な海の表現ができるのです。私事ですが、僕の演出作品も色々な布を「見立て」に使うことが多いのです。日常を見てみると、子どもが3色ボールペンを持って「ロケット発射!」などと叫んで遊んでいる姿は「見立て」の原点かもしれません。表現は奥が深いですね!