1945年に封切られて、世界中で脚光を浴びた映画「天井桟敷の人々」は、フランス映画史上に残る名作と言われています。ご覧になられた方も多いと思います。僕自身も、主役のバチストを演じたジャンルイ・バローの情感あふれるマイムに、すっかり魅了された一人です。古い話で恐縮ですが、バローさんが1977年に2回目の来日をされた時に、能の観世寿夫さん、狂言の野村万作さんと3人でワークショップをするというので、勇んで観世能楽堂に出かけました。テーマは日本と西洋の「鐘をつく」演技をそれぞれが披露して、その表現の違いを探るというものでした。まずジャンルイ・バローさんが登場して、マイムで「鐘を鳴らす」演技をしました。リアリズムを基本にした美しいフォルムでロープを握り下に振りかぶり、その反動で軽々とジャンプする洗練された動きに息を呑みました。教会のガラーン・ガラーンと鳴る鐘の響きが、まさに聴こえて来ました。万雷の拍手。そして次は観世さんと野村さんの番です。片膝を立てて構えた態勢で、鐘つき棒を手に後ろにふっと振りかぶり、前に撞き出しました。一間おいて、ゴーンという深い低音の鐘の音が響き渡りました。これも万雷の拍手。表現では、古典の型を継承する繊細さと、新しい型を創り出す大胆さを併せ持つことが大切なんですね。今でも心に残る、若き日の貴重な体験でした。